トラップ以外の機器
低圧蒸気の昇圧・再生による省エネルギー
クリーンエネルギー 2008年8月号掲載
低圧蒸気の昇圧・再生による省エネルギー
(株)テイエルブイ 高田 敏則
はじめに
蒸気プラントでは、地球温暖化防止や徹底したコストダウンのために、更なる温室効果ガス排出量削減、省エネルギーの必要性に迫られている。
そのためにこれまでも、ボイラの効率向上、プロセスの熱効率改善など多くの改善が実施されてきた。
しかし、多くの蒸気プラントでは大気に熱放散している湯気や、使い道のない余剰蒸気が大気放出されており、これらが未利用の蒸気エネルギーとしてまだ存在している。しかも、これらの湯気や廃蒸気については、「再利用が出来ないため、仕方がないもの」として諦められ、改善が行なわれないままになっているケースも多く見られる。
本稿では、このような未利用の蒸気エネルギーを回収し、低圧または中圧の蒸気として昇圧、再生するとともに、同時にドレンの移送、再利用も可能にした新しい省エネルギー技術について紹介する。
従来の『スチームエゼクター』の問題・課題
一般的な蒸気プラントでは、図1に示すフロー図のようにボイラで作られた蒸気は、高圧蒸気から中圧、低圧と段階的に分け、その圧力差を利用して発電を行ない、さらに各圧力の蒸気はそれぞれプロセスに供給される。また、蒸気プロセスで使用された蒸気はドレンとなってスチームトラップから排出され、高圧・中圧のドレンはフラッシュタンクでフラッシュ蒸気を発生させて中圧・低圧蒸気として再利用し、さらに低圧ドレンはドレンタンクを介してボイラの給水タンク等に回収される。
また、発電を優先するプラントや生産プロセスからの副生蒸気が発生するプラント等では、低圧蒸気が大量に発生し、その使い道がないために余剰となり大気放出しているケースもある。
このような廃蒸気を有効利用する方法としては、古くから『スチームエゼクター』が用いられてきた。
しかし、『スチームエゼクター』は、高圧の駆動蒸気を低圧の吸入蒸気と混合して、昇圧させるもので、元々各現場の使用条件に合わせて個々に一点設計される機器で、広範囲な使用条件には使用できず、また性能・機能ともに充分とは言えなかった。
さらに、『スチームエゼクター』を使って未利用エネルギーを回収、再利用するためには、周辺機器の選定やシステム設計、配管設計が必須で、かなりのエンジニアリングを必要とする。
また、単なる昇圧のための機器であり、蒸気の乾き度や吐出蒸気圧力の安定性に欠け、ドレンの移送の機能は有していないため、広く一般的な改善に使える省エネ技術ではなかった。
新技術『スチームコンプレッサー システム SCシリーズ』
このような蒸気プラントでの廃蒸気の有効利用に関する問題・課題を解決し、更なる省エネルギー、CO2排出量削減を促進するために『スチームコンプレッサー システム SCシリーズ』が開発され、評価を得ている。
(1) 構造・原理
『スチームコンプレッサー システム SCシリーズ』(写真1)は、湯気や廃蒸気を高効率に昇圧、再生して蒸気プロセスで使用可能にするための『スチームコンプレッサー ユニット』(写真2)と、無電力でドレンを加圧、圧送するための『パワートラップ システム パッケージ』から構成される。
『スチームコンプレッサー ユニット』は、蒸気エゼクターと同じ原理で吸入蒸気を昇圧することができる。また、駆動蒸気の入口には『セパレーター内蔵の高性能自力式減圧弁』が設置されており、駆動蒸気を乾き蒸気にすることでスチームコンプレッサーの性能向上と耐久性を向上している。さらに、この自力式減圧弁によって蒸気プロセスに供給する蒸気の圧力を高精度に維持、安定させることが可能である。
一方、『パワートラップ システム パッケージ』は、ドレンタンクと電気を使用しないメカニカルポンプをパッケージ化しており、ドレンタンクでは中圧・高圧のドレンを、低圧のフラッシュ蒸気とドレンに分離し、さらにドレンは駆動蒸気の蒸気圧力によって加圧され、ボイラ給水タンク等に圧送、回収される。
このように『スチームコンプレッサー システム』は、電気を一切使用せずに、廃蒸気を低圧・中圧蒸気に昇圧、再生して蒸気プロセスで再利用可能にするとともに、同時にドレンも加圧、圧送する機能を有する。
また、ドレン回収専用ポンプCP-Nとの組み合わせにより、ドレンを直接ボイラにクローズド回収する等のカスタマイズも可能である。
(2) 特長
① 蒸気の未利用エネルギーを低圧・中圧蒸気として再生して活用し、省エネルギー・CO2排出量削減を促進。
ドレンタンクや蒸気プロセスから大気に放散している湯気や廃蒸気を低圧蒸気に昇圧、再生し、また大気放出している余剰の低圧蒸気を中圧蒸気に昇圧、再生することが可能。これまで回収、再利用できないと諦めていた蒸気プラントの湯気や低圧廃蒸気を再利用することで、省エネルギー・CO2排出量削減が促進されるとともに、湯気の解消による見映え、環境上の問題も解決できる。
② 電気を必要としないため防爆域でも簡単に設置可能。
廃蒸気の昇圧、ドレンの加圧・圧送には駆動源として蒸気を使用するので、電気が一切不要。従って、防爆域でも簡単に設置工事、運転ができ、防爆域という理由でこれまで改善工事ができなかった多くの蒸気プラントの改善が促進される。
③ ドレン回収のフラッシュタンク(圧力容器)が不要。
高圧ガス規制の圧力容器に該当するフラッシュタンクをドレン回収に使用している場合は、フラッシュタンクをなくすことも可能。圧力容器のフラッシュタンクに変わり、本システムにセットのドレンタンクで、フラッシュ蒸気を一旦大気圧力まで減圧後、低圧蒸気まで昇圧して再利用を可能にするとともに、ドレンも加圧、移送して再利用が促進される。
また、大気圧力でドレンを回収するため、ドレンが排出される蒸気プロセスに大きな背圧が掛からず、プロセスの突発停止リスクも低減する。
④ システムのコアに高性能スチームコンプレッサーを採用。
新開発の高性能スチームコンプレッサーは、これまでのスチームエゼクターに比べて吸入蒸気量を増大し、少ない駆動蒸気量で大量の湯気、廃蒸気を高効率に昇圧、再生することが可能。従来のスチームエゼクターに比べて、吸入蒸気量を約10%アップし、図2の通りの性能を有する。
1.0MPaG前後の駆動蒸気圧力があれば、吸入比は5以下で、吸入蒸気圧力を2倍以上の吐出蒸気圧力まで昇圧でき、これまで投資採算性の問題から改善されてなかった少量、低圧の廃蒸気の有効利用が促進される。
⑤ 長期間に渡る高効率と安定した吐出圧力を維持。
駆動蒸気の入口に設置された『セパレーター内蔵の高性能自力式減圧弁』は、駆動蒸気を乾き蒸気に改善し、スチームコンプレッサーの効率を向上し、かつ長期間に渡り性能を維持する。
また、同時に吐出圧力を高精度に安定して維持し、蒸気プロセスに供給する蒸気圧力を正確に保持し、蒸気プロセスでの品質・生産性の向上も実現される。
(3) 仕様
『スチームコンプレッサー システム』のコアとなる『スチームコンプレッサー ユニット』を用途、使用条件に応じて外形を下記の3種に標準化しており、以下に詳細仕様を示す。(表1)
表1 『スチームコンプレッサー システム』の仕様例
型式 | SC1 | SC2 | SC4 | |
---|---|---|---|---|
接続 [mm] | 駆動蒸気口 | 25 | 50 | |
吐出口 | 80 | 100 | 150 | |
吸入口 | 50 | 80 | 100 | |
最大吸入蒸気流量 [kg/h] (吸入圧力0.2MPaGの時) |
250 | 600 | 1,000 | |
本体材質 | 制御弁:ねずみ鋳鉄 エゼクター部:炭素鋼/ステンレス鋼 逆止弁:ステンレス鋳鋼 ドレン回収ポンプパッケージ:ねずみ鋳鉄/炭素鋼 |
|||
最高使用圧力(PMO) [MPaG] | 1.57 | |||
駆動蒸気圧力範囲 [MPaG] | 0.6~1.57 | |||
最高使用温度(TMO) [℃] | 220 | |||
使用流体 | 蒸気、蒸気ドレン |
(4) 用途
『スチームコンプレッサー システム』の用途は下記の3つに大別される。
また、スチームコンプレッサーの基本性能は先の図2の通りで、駆動蒸気圧力が1.0MPaG前後あれば、吸入比5以下で、吸入蒸気圧力をほぼ2倍以上の吐出蒸気圧力まで昇圧できる。例えば、僅か200Kg/h程度の大気圧力の廃蒸気でも、0.2MPaGまで昇圧して蒸気プロセスで使用可能になれば、年間メリットは300~350万円/年前後となり、工事費を含めた改善のための総投資額は通常3年未満で償却可能である。
① ドレンタンクや蒸気プロセスから大気に放散している湯気を回収、再利用。
多くの蒸気プラントではドレンを回収、再利用する際、蒸気プロセスの突発停止リスクを低減する目的で、蒸気プロセスのドレン出口側からの背圧の作用を避けるために、ドレンを回収するタンク等を開放にして、ドレン回収システムの一部を大気圧力にしている。
そのため、この開放部からドレンの持つ熱エネルギーの一部が湯気や蒸気のまま大気に熱放散し、この熱エネルギーが有効利用されていない。
『スチームコンプレッサー システム』は、この大気に放散している湯気、廃蒸気を低・中圧蒸気に昇圧、再生して再利用可能にするとともに、同時にドレンも加圧、圧送して再利用可能にする(図3)。
② 圧力容器となるフラッシュタンクを使わずにフラッシュ蒸気を再利用。
高圧の蒸気プロセスで発生するドレンは、通常、フラッシュタンクを設置して、ドレンを中圧・低圧のフラッシュ蒸気に変換して再利用する。しかし、そのためには通常、圧力容器となるフラッシュタンクが必要で、かつ圧力容器になった場合は定期的な法定検査も必要である。
『スチームコンプレッサー システム』は、大気圧力のタンクを備えており、高圧ドレンを一旦大気圧力まで減圧してフラッシュ蒸気を発生させ、さらに中圧・低圧蒸気まで昇圧してフラッシュ蒸気を再利用できるので、フラッシュタンクが不要となる。また、同時にドレンも加圧、圧送して再利用可能にする(図4)。
③ 発電の優先などで発生する余剰の低圧蒸気を再利用。
蒸気タービン等で自家発電を行なっている蒸気プラントでは発電量の増大を優先するために、結果として発電後の低圧蒸気が余剰となり、やむを得ず大気に放出しているケースがある。また、生産プロセスからの副生蒸気の発生等によっても蒸気が余剰となっている蒸気プラントもある。
『スチームコンプレッサー システム』は、このような余剰となった低圧蒸気を中圧蒸気に昇圧、再生して再利用可能にすることもできる。
おわりに
蒸気は、環境に優しく使いやすく低コストなことから、産業界で最も多く使用される熱エネルギーで、多くの蒸気プラントでは省エネルギー・地球温暖化防止対策のために日々その有効利用の改善に取り組まれている。
また、『エネルギー使用の合理化に関する法律』や『地球温暖化対策の推進に関する法律』への対応も必要で、今後も蒸気有効利用の重要性は益々高まっている。
本稿で紹介した『スチームコンプレッサー システム』は、多くの蒸気プラントの改善課題として残されている蒸気の未利用エネルギーの改善に有効な新技術であり、今後の省エネルギー、CO2排出量削減の促進に寄与するものと確信している。
最後に、今後も蒸気使用に関する課題を抱えておられる読者の皆様のニーズに広く応えていく所存であり、本稿に関するお問い合わせやご意見は、下記までご連絡頂ければ幸いである。
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