メインコンテンツに移動
  1. ホーム
  2. 雑誌掲載記事
  3. トラップ以外の機器
  4. 蒸気流量計測とエネルギーモニタリング

トラップ以外の機器

蒸気流量計測とエネルギーモニタリング

計測技術 2006年2月号掲載

蒸気流量計測とエネルギーモニタリング
<蒸気の計測を最適化するシステムおよび管理ノウハウ>

(株)テイエルブイ  丸田 智則

はじめに

わが国では、石炭、石油、天然ガスなどの一次エネルギーを大量に消費し世界第2位の経済大国へと発展したが、1973、1979年の二度のオイルショックを経験し、特に産業界においては懸命に省エネルギー対策を推進してきた。

だからこそ、わが国ではGDP(国内総生産)当りの一次エネルギー消費量では、2002年でGDP百万米ドル当たり90.3石油換算トンと主要国中で最も効率の良い使い方がなされている。しかし、2003年に施行された改正省エネルギー法や2005年度に発効された京都議定書により、更に徹底した省エネルギーの推進とCO2などの温室効果ガス排出量の削減が求められている。

産業界において使用されているエネルギーを大別すると熱と電気エネルギーがあるが、熱エネルギーにフォーカスすると蒸気が最も多量かつ広範囲に利用されている。よってこの蒸気をより有効に利用し正確に計測することは必須条件となっている。

本稿では各種計測の中でも蒸気流量計測にフォーカスし計測及び管理をより正確に有効に行えるよう、計測器を蒸気配管に設置する上での注意点から、システム作り、管理方法までを紹介していく。

1.蒸気とは

蒸気とはボイラにて一定圧力の下で水を加熱し、沸騰・蒸発して気体になったもので、一般にはガスと区別して扱われる。水と蒸気が飽和状態にある時、その蒸気を飽和蒸気、その水を飽和水と呼ぶ。また蒸気が飽和状態にある時は、温度または圧力のいずれかが定まれば他は自然に定まり、蒸気の比重量も定まる。

また、飽和蒸気から熱を奪うと凝縮しドレン(復水)を発生させる。蒸気システムにおいてはこの発生したドレンは配管腐食、ウォーターハンマー、加熱効率の低減を誘発することから、素早く外部へ排出する必要がある。そして蒸気使用装置に対しては、全く水滴を含まない乾き飽和蒸気(乾き度100%)の供給が望ましい。

2.流量計設置上の留意点
(1) 乾き飽和蒸気の供給

第1図 サイクロンセパレータDC3S

蒸気負荷や圧力などの諸条件が変化し、蒸気の乾き度が変化しても、流量計ではそれを捉えることができない。このような流量計測における不安定要素を取り除くために流量計の一次側にセパレーターを設置することが望ましい。

また、配管腐食やウォーターハンマーの防止といった二次的なメリットも期待できる。ここでいうセパレーターとは通常のものと異なり、内部に旋回羽根と、スチームトラップを内蔵したものである(サイクロンセパレーター DC3S)。配管底部を流れるドレンを排出するだけでなく遠心分離作用により、細かいミスト状のドレンも分離・排出できることから蒸気の乾き度も向上できる(第1図)。

(2) 必要直管長

流体の流れを整えて、より正確な流量計測を行うため、流量計の一次側に直管部が必要となる。流量計の型式に関わらず多かれ少なかれ必要となるが、蒸気の流量計測に最適とされる渦式流量計では他形式に比べ比較的長い直管長が必要とされる。

また、(1)項で説明しているようなセパレーターや減圧弁、玉型弁などは大きく流れを乱すために最も長い直管長が必要とされる。必要直管長は流量計の一次側に何があるかによって、配管径のある倍数分必要となる。当社では第2図のように規定している。また、大口径の配管の場合に設置スペースの関係で必要直管長を設けるのが困難な場合は、整流器を設置することにより最短10D(D=配管呼び直径)まで短縮することができる。

第2図 必要直管長の一例

(3) 蒸気の熱影響

蒸気の流量を計測する上で考慮しなければならないことは蒸気の熱影響である。流量計は多かれ少なかれ熱に弱い電子機器が使用されているためである。参考までに飽和蒸気の場合、2.0MPaGで215℃にも達する。

蒸気による熱影響は、配管表面からの放熱と流量計本体を伝わってくる熱(伝熱)による二つの影響が考えられる。放熱による影響は配管を正しく保温することにより、かなり軽減されるが、当社では第3図に示すように下向き設置もしくは90°方向への設置を推奨している。縦配管の場合は、この限りではない。

第1図 サイクロンセパレータDC3S

伝熱による影響は、各メーカーとも電子機器部分を蒸気に直接接している本体部から離した設計がなされているが、この離すための部分(放熱部もしくは伝熱遮断部)を保温すると熱を伝えやすくなり、問題となる場合があるため、当社では第4図のように保温してもよい範囲を制限している。

図4 保温施工範囲の注意点

写真1 サイフォン管

蒸気の熱影響は流量計以外でも十分に考慮する必要があり、蒸気プラントであらゆる箇所に設置されているブルドン管式圧力計や半導体歪ゲージを利用した圧力センサーなども熱に弱いためにサイフォン管を使用し熱を遮断している(写真1)。

蒸気流量計測の補正用に設置された圧力センサーが設置直後に故障した話を稀に聞くが、これはサイフォン管を縦配管に横向きに設置しサイフォン管が機能していなかったり、電磁弁やボールバルブで蒸気を一気に通気し始めて、サイフォン管内で蒸気がドレン化し水封する前に蒸気が直接センサー部に達し、熱により破損したと考えられる。

流量計が設置されている実際の現場を見ると、ボイラ室内でボイラの上部、天井ぎりぎりの部分に上向き設置され、高温多湿の厳しい環境化におかれているケースが多く見受けられる。このように蒸気を計測する場合には他の流体と異なり、十分に熱影響について考慮する必要がある。

3.蒸気の特性を踏まえた計測システム作り
(1) スチームハンマー対策

蒸気配管系で大きな問題を起こす可能性があるのは主にウォーターハンマーであるが、計測の分野で考えるとスチームハンマー(過大流速)も問題を引き起こす可能性がある。

まずウォーターハンマーとは、配管内に滞留したドレンが高速で流れる蒸気によりピストン状に高速移動され、エルボなど急激に流れの方向が変えられる場所に激突し、大きな衝撃と音を発する。計測器は元より配管自身を損傷させる恐ろしい現象である。

一方スチームハンマーとは、過渡的もしくは定常的に過大流速(一般的に80m/sec以上)で管内を蒸気が流れることである。蒸気輸送配管系においては、特に配管自身が冷えている通気始めに一気に蒸気を供給した場合に発生しやすい。ドレンの排出が適正に行われていない場合はウォーターハンマーも誘発する。

また、この時に勘違いされやすいのは、通気始めの圧力が低い状態では蒸気の比重量が小さく、質量流量表示されている蒸気流量は見かけ上少ないが、流速に換算すると極端な例では音速近くに達してしまう場合があるので、注意が必要である。

もう一つのスチームハンマーの発生要因としては、蒸気使用装置の一次側に電磁弁等の瞬時に全閉全開を行うバルブが設置され、蒸気の供給をON/OFF制御している場合などにも発生する。極端な例では、流量計の二次側でほぼ同サイズの配管が複数に枝分かれしており、ほぼ大気開放の装置に供給されていたケースがある。装置の入口にはそれぞれ電磁弁が設置され、装置の起動タイミングによっては数ラインに一気に蒸気が供給され、ごく短期間で流量計が破損していた。

このようにスチームハンマーにより、流量計を含め配管内に設置されている計測器に重大なダメージを与える恐れがあるため、長期間にわたり正確で安定した計測を行うには、蒸気の供給方法についても十分に考慮する必要がある。

(2) 飽和蒸気計測における比重量補正

蒸気の流量を計測する場合、体積流量ではなく質量流量で表現される。体積流量を計測し(正確には流速を計測し体積流量に換算)その時の蒸気圧力により蒸気の比重量を求め質量流量に換算するのが一般的である。1項で説明したように、飽和蒸気では圧力もしくは温度の一方が決まると蒸気の比重量が定まるため、流量計と合わせて圧力もしくは温度センサーを設置し、負荷変動により蒸気の圧力が変化したとしても正確に補正計算を追従させる必要がある。

(3) 過熱蒸気計測における比重量補正

過熱蒸気とは、蒸気圧力に対する飽和温度より高い温度の蒸気をいう。過熱蒸気の場合、圧力が一定であっても様々な温度(過熱度)の蒸気が存在し、その温度によっても蒸気の比重量が異なる。一例として1.0MPaG(184℃)の飽和蒸気の比重量は約5.64kg/m³であるが、同圧力で250℃の過熱蒸気の場合、約4.75kg/m³となる。そのため、温度および圧力の両方を計測し補正を行わないと大きな誤差が生じることとなる。この条件で圧力補正のみを行い飽和蒸気として算出した場合、計算上約19%も多く計測してしまうことになる。

(4) 蒸気流量計EF73

当社が販売している渦式流量計EF73について簡単に紹介する。EF73は蒸気・エア・水などのほぼ全ての流体が計測できるが、スチームスペシャリストである当社が、特に蒸気流量計測にフォーカスし、導入した流量計である。主な特徴としては、

  • ①渦検出センサー部自身に温度センサーを内蔵し変換器部(頭部分)に演算機能を持たせることにより、流量計単独で質量流量表示可能
  • ②変換器部で瞬時・積算流量同時表示可能(上下2段表示)
  • ③補正後のアナログ・パルス同時出力可能

また、タイプとしては主に2種類あり、変換器部と表示部が一体になった一体型(写真2)と分離型(写真3)が存在する。使い分けとしては、流量計本体の設置箇所が高所等にあり流量値を直読することが困難な場合は、分離型を選定し表示部のみを見やすい場所に設置する。流量計からのアナログやパルス信号を中央監視室に送り、中央で監視する場合はこの限りではない。近年は、このケースが増えている。

写真2 EF73の外観写真とセンサ部拡大  写真3 蒸気流量計EF73分離型

4.エネルギーモニタリングシステム

省エネルギーを推進するにあたり、計測データを管理し、PDCAサイクルを継続する体制を構築しなければ、効果的な省エネルギーを推進することはできない。

このPDCAサイクルを実施するには、『現状把握および改善効果の確認』を行う際に、工場内に多数設置された計測器のデータを集計し、解析する必要がある。しかし、現状ではこのデータ収集および解析に多大な工数が必要となることから、PDCAサイクルを継続できない場合が多い。

当社のエネルギーモニタリングシステムEcoBrowser(エコブラウザー)は、このようなデータ収集および解析の工数を削減するだけでなく、得られた情報をイントラネットから全社員に公開し、改善テーマを発掘するための材料の提供や改善活動の結果をフィードバックできる機能を有し、PDCAサイクルの推進を強力にサポートする。

さらに、計測データを常時モニタリングすることによる異常の早期発見や、計測結果を所定のフォームにて自動記録し省エネルギー法に定められた計測結果の記録保存をサポートする。

(1) 特徴
  • ①蒸気の流量計測に限らず、電気、エア、ガス、水および生産量等のPLCに接続できる計測器データのエネルギー消費量、原単位を一元管理できる。
  • ②全社員は自分のコンピュータからWebブラウザーを用い、インターネット上のWebサイトを閲覧するのと同じ要領で自由に見ることができる。
  • ③社内にイントラネットが設置されていれば、複数のPLCとデータ収集PCは、このネットワークを利用して接続することができ、工場内に多数設置された計測器の配線を一箇所に集約するための、配線工費を大幅に削減できる。
  • ④エネルギーの管理区分を自由に設定できるため、蒸気、電気、水などのユーティリティ区分だけでなく、会社の組織形態に応じた5階層におよぶ細かい管理区分が設定できる。
  • ⑤エネルギー使用量を金額、CO2および原油に換算した値をWeb表示できる。
  • ⑥画面上で現在の計測値がリアルタイムに表示され、設定したアラーム領域に入ると、画面上にアラームを表示するとともに警報音を発し、異常の早期発見を容易にし、異常時のエネルギーロスや生産の機会損失を低減できる。

第5図 蒸気系統モニター画面例第6図 蒸気流量管理トレンドグラフ例

(2) システム概要

エネルギーモニタリングシステムの構成を第7図に示す。

  • ①流量計や電力計などの計測器
  • ②計測器からのデータを取り込むProgramming Logic Controller(PLC)
  • ③PLCからのデータを取り込み、ディスプレイ画面上に現在の計測値をリアルタイムで表示するデータ収集コンピュータ
  • ④収集したデータをイントラネットからWeb形式で公開するWebサーバコンピュータ

から構成される。

第7図 システム構成例

おわりに

本稿で紹介したように他の流体とは異なり、配管方法からシステム構成まで、蒸気だからこそ注意しなければならない点が多くあり、これを怠ると正確な計測ができないばかりか、配管や機器をも壊す場合や、人身事故につながる可能性もある。よって、小規模のスチームシステムの改善もしくは新設物件であっても、蒸気に精通した専門企業に相談するのも一つの手である。

当社はスチームスペシャリストとして、1950年の創業以来半世紀以上にわたり、一貫して蒸気分野にこだわり続けている企業である。今後とも蒸気を使用する全てのユーザーに少しでもお役に立てればと考え、日々切磋琢磨していく所存である。

EcoBrowserは(株)テイエルブイの登録商標です。