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トラップ

スチームトラップの選定

ボイラ研究 2003年2月号掲載

スチームトラップの選定

(株)テイエルブイ  林 恵子

1.はじめに

スチームトラップはドレンによるトラブルを防ぎ、プラントの安定操業を確保する上で重要な役割を果たしている。例えばドレンが配管・機器内に滞留するようなことになれば、腐食、ウォーターハンマーの発生や、加熱効率の低下などのトラブルが起こってしまう。

ここではスチームトラップの機能・種類や、一般的な選定方法について述べる。

2.スチームトラップの機能、種類、特長

スチームトラップの選定を行なうためには、様々なスチームトラップが持っている特長について知っておかなければならない。

スチームトラップの3大機能として下記のようなものがある。

  • ①ドレンを排出する機能
  • ②蒸気を排出しない機能
  • ③不凝縮ガス(空気など)を排出する機能

スチームトラップには様々な種類があるが、すべてのスチームトラップが上記の各機能を十分に果たしているわけではない。また、上記の基本的なスチームトラップの機能のほかにも、耐久性やメンテナンス性、背圧許容度について、各スチームトラップで異なっている。

代表的な各スチームトラップの特性を表1にまとめている。

表1 各種スチームトラップの特性

種類 利点 欠点 用途
フリーフロート式
スチームトラップ
  • 磨耗や引っ掛かりの原因となるリンク機構が無く、故障しにくい。
  • ドレン量や圧力の変化にかかわらず、ドレンを滞留することなく排出する。
  • 3点支持機構により、過熱蒸気主管にも使用可能。
  • 起動時に空気を排出する。
  • ロックレリーズバルブの内蔵も可能。
  • 非常に激しいウォーターハンマによって、フリーフロートが損傷を受ける可能性がある。
  • 凍結により損傷する恐れがある。
  • 最大効率を必要とするあらゆる熱交換器、蒸気使用装置
  • ドレン回収などにより背圧が作用する用途
  • 早い起動が必要とされるバッチプロセス
  • 極少ドレン(3点支持機構)
  • 蒸気主管(3点支持機構)
下向きバケット式
スチームトラップ
  • ウォータハンマに対して強い。
  • 空気の排出が遅い。
  • ドレン量が少ない時、蒸気の漏洩がある。
  • 入口圧力が急激に低下すると、蒸気を漏洩する。
  • 過熱蒸気には使用できない。
  • 凍結により損傷する恐れがある。
  • 安定状態で運転している蒸気使用装置
蒸気圧膨張式
スチームトラップ
  • 小型・軽量である。
  • 空気を効率的に排除する。
  • ドレンを自然排出するため、凍結による損傷が少ない。
  • TLVのX-エレメント以外は、ウォータハンマによる損傷を受けやすい。
  • TLVのX-エレメント以外は、過熱蒸気に使用できない。
  • ドレンが飽和蒸気温度から数℃冷却されるまでドレンを滞留する。
  • 背圧の影響を受ける。
  • 蒸気スペース内のドレン滞留がわずかにあっても、生産に支障の無い小型の蒸気使用装置
  • 蒸気トレース
  • 蒸気加熱ラジエータ
  • 蒸気使用装置のエアベント
バイメタル式
スチームトラップ
  • 小型である。
  • 空気を効率的に排除する。
  • ウォータハンマに強い。
  • 調節が必要
  • ドレンは蒸気温度以下のかなり低い温度に冷却されるまで滞留する。
  • ドレン量の変化に対する反応が鈍い。
  • 背圧の影響を受ける。
  • 低温トレース
  • 計装トレース
  • エアベント
ディスク式
スチームトラップ
  • コンパクトで頑丈な構造で、ウォータハンマや凍結に強い。
  • スチームトラップの大きさに比べて、高い排出能力を持つ。
  • 幅広い圧力で作動する。
  • 入口圧が非常に低い時は使用できない。
  • 背圧が入口圧の50%以上の時には正常作動しない。
  • 自動ブローオフ機構が無いと、空気障害を起こす。
  • 雨や雪などのように冷却されやすい使用条件では、作動サイクルが短くなり、蒸気の漏洩量が増加する。
  • 蒸気主管(特に、高圧や過熱蒸気)
  • 蒸気トレース
3.トラップ選定方法

スチームトラップ選定は、使用条件によって重視しなければならない仕様があり、すべてが同じ手順で選定されるものとは限らないが、一般的な手順として以下を説明する。

3-1. 蒸気使用用途に適したスチームトラップの種類を決定

各スチームトラップの特性を踏まえて、用途に適したスチームトラップを選定する。用途別に選定したスチームトラップの種類を表2にまとめた。

表2 用途別スチームトラップ選定種類

  最適なスチームトラップの種類
蒸気輸送配管 1.3点支持フリーフロート式
2.蒸気圧膨張式
3.ディスク式
プロセス 1.エアベント内蔵フリーフロート式
2.蒸気圧膨張式
トレース 1.蒸気圧膨張式
2.バイメタル(温度調節用)
3-2. スチームトラップの耐圧・耐温を決定

スチームトラップは使用材質などにより、耐圧・耐温が異なる。ラインの設計圧力・温度を確認し、仕様に合う材質のものを選定する。

3-3. スチームトラップの作動圧力範囲を決定

スチームトラップには、最低作動圧力差および最高作動圧力差が決まっている。装置の最高運転圧力・最低運転圧力、スチームトラップの二次側圧力から、作動圧力範囲を決定する。

特に、使用条件が変動する場合などには注意が必要である。

また、スチームトラップの種類によって、入口圧力に対する出口圧力の許容度(背圧許容度)が違う。例えば、ディスク式スチームトラップでは、出口圧力が入口圧力の30~50%になると、正常作動できなくなってしまうが、フリーフロート式スチームトラップでは99%まで作動可能である。ドレン回収などを行なう際には、スチームトラップに背圧がかかる状態になるため、背圧許容度の大きなスチームトラップを選定する必要がある。

3-4. スチームトラップの排出能力を決定

スチームトラップの排水能力は、装置の発生ドレン量の変動やスチームトラップの作動形態に対応するため、装置のドレン発生量に安全率をかけた値で選定する必要がある。その安全率の値は、スチームトラップの種類によって、表3のようになる。

ただし、負荷変動が大きい時や、シリンダドライヤのようにドレン排出が困難な装置には表よりも大きな安全率を適用する。

表3 型式別標準安全率

形式 安全率
フロート式 1.5~2.0
バケット式 2.0~3.0
蒸気圧式 2.0~5.0
バイメタル式 3.0~5.0
ディスク式 2.0~3.0
3-5. 接続仕様、サイズ、ボディ材質等を決定

使用用途や自社の基準・規格に合わせた接続方法・サイズ、ボディ材質を選択する。

3-6. スチームトラップ型番を決定

以上5項目の条件を満たす、スチームトラップ型番を選定する。

4.トラップ選定具体例

選定具体例を示す。

<条件>

  • プロセス:100L程度の2重釜(ジャケット釜)
  • 運転圧力・温度:0.2MPaG、蒸気飽和温度
  • 出口側圧力:0.1MPaG(ドレン回収ラインへ接続)
  • 作動圧力差:0.1MPa
  • ドレン量:150kg/h
  • 接続他:15Aねじ込み接続

2重釜などの空気の溜まりやすい構造の装置では、空気をいかに速やかに排出できるかが重要になる。空気が多く装置内に残ると、装置立上げ時間や加熱時間が長くなり生産性に大きく影響する。したがって、ここでは、空気を排気する能力の大きい、また、ドレン滞留しないスチームトラップを選定する必要がある。

<選定結果>

  • 型式:J3X-2(写真1参照)
  • 接続:15Aねじ込み
  • 最高作動圧力差:0.2MPaG
  • 最低作動圧力差:0.01MPaG
  • ドレン排水能力:500kg/h(図1参照)

このスチームトラップの特長を挙げる。

J3X外観写真

  • ①内蔵エアベントで低温・高温空気を速やかに排出する。
  • ②ドレン連続排出型のため、ドレン滞留を起こさない。
  • ③ドレン出口は常にウォーターシールされており、蒸気漏れが起こりにくい。
  • ④背圧許容度が大きく、ドレン回収にも最適。
  • ⑤構造がシンプルで、故障が少なく、メンテナンスも容易。

J3X排水能力

5.おわりに

スチームトラップの選定について述べてきたが、これは一般的な選定方法、選定結果である。実際には、工場によって要求する項目が違い、装置によって最適なスチームトラップは何かということは違ってくると思う。本稿が、蒸気使用装置が高効率・低コストでトラブルなく運転される助けとなれば幸いである。