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ドレン回収
ドレン回収垂直配管のウォーターハンマー対策
ウォーターハンマー軽減策の実証実験
配管内のドレンが波立つことによって発生するウォーターハンマーがあります。このウォーターハンマーを軽減する対策の一つとしてドロップダウンループシール(Drop-down Loop Seal、以下DDLS)と呼ばれる配管の取り回しがあります。DDLS配管の特徴は、簡単に言えば、立ち上がり前の水平部を一旦立ち下げてごく短い水平部を作り、そして立ち上げることで水封(seal)を形成することです。
TLVの米国のグループ会社がこのDDLS配管によるウォーターハンマー軽減効果を確認するために、透明なプラスチック配管と圧縮空気、水を用いて実証実験を行いました。この動画を使ってウォーターハンマー対策について考えてみます。
ウォーターハンマーの発生原因は二相流配管内の波立ち
ドレン回収配管の内部はドレン(蒸気が凝縮した水や温水)で満たされているという誤解が一部にありますが、実際のドレン回収配管内部はかなりの部分を気体が占める気液混合二相流になっています。
気体の正体はフラッシュ蒸気です。フラッシュ蒸気はスチームトラップから排出されたドレン自体から発生したものです。高温のフラッシュ蒸気が低圧にさらされると再蒸発現象が発生して、ドレンの一部がフラッシュ蒸気となります。
フラッシュ蒸気は気体(気相)、ドレンは液体(液相)で、この二者が同じ配管の中を流れます。この両者は配管内を同じ速度で流れるのでしょうか?
両者が十分に混じり合った状態では同じ速度で流れますが、重力でドレンが下方、フラッシュ蒸気が上方に分かれた状態では、フラッシュ蒸気はより速く流れ、ドレンはフラッシュ蒸気よりも遅い速度で流れます。同じ管の中で速度差があるため、気相と液相が接する液面では台風時の高波のように波立ちが発生します。この波立ちがウォーターハンマーの発生要因になります。
ウォーターハンマーの実験動画
ウォーターハンマー再現実験の動画には2本の配管が映っています。
- 上の配管で、波立ちからウォーターハンマーが発生する過程を確認します。
- 下の配管で、ドロップダウンループシール(DDLS)配管の効果を確認します。
上配管:ウォーターハンマーの再現
長い水平配管の後に配管が垂直に立ち上がる箇所があります。波立ちによるウォーターハンマーが発生しやすいのはこのような箇所です。次のような理由・メカニズムでウォーターハンマーは発生します。
ウォーターハンマーの発生原因
- 水平部が長いことで、重力によるフラッシュ蒸気とドレンの分離が起こりやすい
- フラッシュ蒸気とドレンが分離することで速度差が生じる
- 速度差により、液面で波立ちが起きる
- 水平距離が長いため多数の波が発生し、多数の波は重なって大きな水塊になりやすい
- 水塊が配管断面の全体を満たすと、水塊はフラッシュ蒸気を受け止めるピストンのような圧力壁となる
- 水平距離が長いためピストン状の水塊が十分に加速し高速になる
- 高速の水塊は慣性が大きいためエルボを曲がりきれず、エルボに衝突しウォーターハンマーが発生する
- 衝突した波は反射して逆流し、別の波とぶつかって大きな波になる
- 繰り返し、ウォーターハンマーが発生する
動画では、波が大きな水塊になって立ち上がり部のエルボに衝突する様子が確認できます。速度が大きくなると衝撃力が大きくなります。また、管径が大きいと水塊も大きくなるため、より大きなウォーターハンマーとなります。ウォーターハンマーの大きな衝撃は、配管やパッキン、接合部、ときにはバルブも破壊します。
下配管:DDLS配管の効果確認
次に、動画の下側の配管でDDLS配管の効果を確認します。DDSL配管は立ち上がり前の水平部を一旦立ち下げてごく短い水平部を作り、そして立ち上げることで水封(seal)を形成します。
言い換えると、前述の波立ちによるウォーターハンマー発生メカニズムを、この短い区間だけで起こそうというアプローチです。以下のようなメカニズムで、実際にウォーターハンマーが軽減されています。
ウォーターハンマー軽減のメカニズム
- 前後を垂直配管に挟まれるためドレンが集まりやすく、短い周期で“あまり大きくない”水塊ができやすい
- 水塊はフラッシュ蒸気を受け止める圧力壁となるが、エルボに近く距離が短いため十分に加速できない
- 加速する前にエルボに到達するため、慣性が小さくエルボに衝突せずに曲がりきることができる。その結果ウォーターハンマーが起こりにくい
- エルボを曲がりきった水塊は、フラッシュ蒸気に押されて立ち上がり垂直配管部を押し上げられ、下流へ流れていく
- 長い水平部と短い水平部に落差があるため、長い水平部のドレンは短い水平部へ自然流下し逆流しにくい
- これらの結果、長い水平部の液位が低い状態で維持され、大きな波立ちが発生しにくい
ウォーターハンマーの種類に応じた対策を
このようにDDLS配管は、配管内の波立ちに起因するウォーターハンマーを軽減する策の一つであることが確認されました。しかし、これはあくまで一例です。ウォーターハンマーは発生要因や条件によって様々な種類があり、それぞれの発生要因に応じた対策を取る必要があります。今回紹介したDDLS配管が、あらゆるウォーターハンマーに効果があるわけではありません。
また、ウォーターハンマーは複合的に絡み合っている場合もありますので、十分な現地調査と豊富な経験にもとづく知見によって、軽減策を検討する必要があります。