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スチームトラップの使い方

発電所とスチームトラップ

 

動力としての蒸気

蒸気の用途は熱源と動力源の二つに大別できます。通常、産業界、特に工場の多くでは、熱源として蒸気が使用されます。一方、動力源としての蒸気の用途は大部分が発電用です。発電所では高圧高温の蒸気で蒸気タービンを回して発電機を回転させて電力を得ます。

産業革命当時、蒸気が本格的に産業に利用され始めた時も、動力源として利用されましたが、この頃の蒸気原動機は従来人間が行っていたような力仕事を蒸気機関に置き換えたもので、ポンプや、プレス、地底深くから石炭や鉱石を運び出す巻き上げ機などを動かすためのものでした。

現代は、それらの機器の多くが電動機化されましたが、その電動機を動かすための電力を集中的に発生させる商業発電の場で、蒸気が動力源に利用されています。

発電用途にほぼ限定されるとはいえ、その蒸気量は膨大で、工場にある一般的な蒸気ボイラーよりも遙かに大きなボイラーが電力会社や、IPP(Independent Power  Producer:独立系発電事業)会社の発電所で蒸気を発生させています。

蒸気を動力源として利用する発電所には火力発電所、原子力発電所、地熱発電所などがありますが、本稿では火力発電所と原子力発電所にフォーカスして考えてみます。

火力発電所も原子力発電所も蒸気でタービンを動かして発電しています。そのための蒸気配管にスチームトラップは使用されています

動力用蒸気:復水蒸気タービンローター

 

火力発電所の蒸気

蒸気タービンの効率をアップさせるには、より高圧の蒸気を使用します。最新の火力発電所では25MPaG前後の圧力が主流になっています。更に、タービンの入口と出口の圧力差が同じ場合、蒸気全熱が大きい方が高効率となるため、過熱蒸気が使用されます。その温度は500℃を超え、最新の設計では主蒸気の圧力は30MPaG以上、温度は600℃~700℃級に至っています。

この圧力は蒸気の臨界圧力を超えています。そうです。最新の火力発電所の蒸気には超臨界水が使用されているのです。

 

原子力発電所の蒸気

一方、原子力発電所はどうでしょう。燃料から発生するエネルギーが桁違いに大きい原子力では、蒸気温度も高いかというとそうではなく、原子力発電所の主蒸気は飽和蒸気です。

原子力発電所で使用する材質は、従来求められる機械的性質に加えて放射線に対する耐性が非常に重要です。この観点で材質選定していくと、現在の技術では火力発電所並の超高圧・超高温に耐えられる原子力用材料が無いため、蒸気圧力は6~7MPaG程度となっています。

飽和蒸気、過熱蒸気、超臨界水の違いについては蒸気の状態による分類で説明しています。

 

過熱蒸気配管にスチームトラップは必要か

飽和温度よりも遙かに高温の過熱蒸気や、液相と気相の区別がない超臨界水の配管に、スチームトラップは必要でしょうか。

答えは「必要」です。蒸気輸送配管の温度を上げる暖管過程でドレンが発生します。また、ドレンを抜き出すための配管とバルブを設置すれば、その行き止まりになっているドレン抜きの枝管は、暖管後であっても、流れが無いのでその中の蒸気は放熱によって温度が低下しドレン化します。

超臨界水では、ドレン化しなくても温度が低下した状態の超臨界水を排出しなければなりません。

これらの排出は、バルブの手動操作で行うこともできますが、蒸気輸送配管に過熱蒸気や超臨界水が流れている限り続けなければなりませんので、通常はスチームトラップが使用されます。

 

超臨界水に適したスチームトラップ

超臨界水は液相と気相の区別が無いため、原理的に蒸気とドレンの比体積差で作動するフロートなどのメカニカルタイプを用いることができません。

そもそも、液相と気相の比体積差が無い超臨界水配管において、定常状態では何をスチームトラップから排出しているのでしょうか。

前述の過熱蒸気と同様、超臨界水でも行き止まりとなっている枝管部分の温度は低下します。そのため、温度の下がった超臨界水、つまり保有エンタルピーの小さい超臨界水を排出すると考えられます。

温度の下がった超臨界水は温度の高い超臨界水に比べ、比体積が数分の一になります。この比体積差はメカニカルタイプの作動には不十分ですが、ディスクタイプは十分に作動することができます。そのため、超臨界水用スチームトラップとしてディスクタイプが使用されます。

飽和蒸気が使用される原子力発電所では、蒸気とドレンの比体積差を利用したメカニカルタイプを使用することができ、フリーフロートタイプが多数使用されています。

発電所で使用されるスチームトラップの例

超臨界水に適したディスク・スチームトラップとそれ以外の箇所で使用されるフリーフロート・スチームトラップ