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蒸気の制御
蒸気加熱と温水加熱
加熱源としての蒸気と温水の違い
蒸気も温水も身近な加熱源(熱媒体)として使われています。姿は違いますがどちらも“水”です。では、この2つの熱源をどのように使い分けると良いでしょうか?
水は大気圧では100℃で沸騰してしまうため、100℃以上で液体の水として使用するためには、系内全体に使用したい温水温度の飽和圧力以上の圧力をかけ続け、加圧水としなければなりません。
逆に、蒸気は大気圧の飽和温度が100℃なので、減圧弁などで減圧するだけでは100℃以下の飽和蒸気を作り出すことができず、精密にコントロールするためには真空ポンプが必要です。
このことから多くの場合、温水は100℃以下、蒸気は100℃以上で使用されています。
飽和蒸気と温水の伝熱メカニズム
ここでは、蒸気=飽和蒸気として話を進めます。加熱源の性能という視点でみた場合、
- 飽和蒸気の伝熱メカニズムが凝縮伝熱であり、凝縮する際に凝縮潜熱という大きな熱量を放出する
- 蒸気の凝縮は飽和温度のまま一定温度で起こる
という2つの理由により、蒸気の方が温水よりも「熱源温度の均一性」と「伝熱速度」という重要な要素で優れています。この特性を活かして、100℃以下の加熱にも飽和蒸気を使えるように工夫したのが真空蒸気加熱システムです。
これに対して、温水による伝熱メカニズムは顕熱による対流伝熱です。温水自体の温度が下がることで、相手に対して熱量を与えます。
前述の加熱源としての性能差は、この伝熱メカニズムの違いから来ています。
温水が得意な分野
温水加熱の特長は何でしょう。真空蒸気加熱システムの登場で、100℃以下の領域も蒸気加熱ができるようになった現在、均一性と伝熱速度で蒸気加熱に劣る温水加熱にメリットは無いのでしょうか?
そんなことはありません。温水加熱には蒸気加熱と異なる特長があります。発熱反応のように、外部からの加熱中に被加熱物自体が発熱し、熱源以上に上昇してしまう工程があります。その際上手く熱を除去できないと、場合によっては、全体の温度が上がりすぎて工程がダメになってしまいます。
それを防ぐには、熱を上手く除去する、つまり、適切に冷却することが必要です。このときに威力を発揮するのが温水です。
温水は、冷却源となっても伝熱のメカニズムは対流伝熱であるため、加熱の際と同じ伝熱効率で冷却できます。
加えて、伝熱部分に対し常に温水を供給し排出する強制対流方式なので、熱量を外部に移動させることによって冷却することが可能です。
特長を活かして使い分けを
一方、蒸気の場合はどうでしょうか。温度差の逆転により、熱源だった蒸気が冷却源になっていることは温水の場合と同様で、「被加熱物側から蒸気を温める」ことになります。
蒸気が加熱する際は、熱を失った蒸気が凝縮してドレン化するため新たな蒸気が流入できますが、蒸気を加熱する場合は凝縮が起こらず、新たな蒸気は流入できません。更に、出口側ではスチームトラップが蒸気を外に漏らさないため、蒸気では熱量を外部に移動させることによる冷却ができないのです。
また、蒸気そのものの熱容量が温水と比べて小さいことも、蒸気が冷却に適していない理由の一つです。
例えば、体温が36℃の人間にとって、気温30℃は暑く感じますが、湯温30℃のお風呂はぬるすぎてゆっくり浸かることはできません。同じ温度でも伝熱効率が違うため、人間の身体から単位時間に奪われる熱量には差があります。
- 蒸気加熱 : 素早く均一な加熱で、加熱工程に有利
- 温水加熱 : 加熱・冷却両方の能力を持ち、冷却を伴なう加熱工程に有利
このような違いを踏まえ、2つの熱源を用途に応じて使い分けましょう。
尚、温水を使う以外に、冷却を行う技術として気化冷却技術があります。これについては、また別の機会にお話しします。