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蒸気のトラブル

発電所の配管トラブル 前編(トラップ二次側)

 

配管の減肉の原因、エロージョン

配管の減肉による亀裂・穴開き。こうした配管の損傷は、重大な突発事故を招く危険性があり、発電所では特に厳しく管理されています。

この配管の減肉の原因となる現象の一つに「エロージョン」があります。蒸気輸送配管のエロージョンについては、「エロージョン」で詳しく説明していますが、ここでは、発電所の配管トラブルとして起こりやすいドレントラップ(スチームトラップ)前後の配管で生じるエロージョンについて説明します。

※スチームトラップはJISでは蒸気トラップ(steam trap)と記載され、一般的にはスチームトラップと呼ばれますが、発電所ではスチームトラップも他の気体用トラップと同様に「ドレントラップ」と呼ぶことが多いため、本稿では以下ドレントラップと記載します。

 

ドレントラップ二次側の還水配管で起こる減肉

まずは、ドレントラップの二次側(下流側)である還水配管の減肉・穴開きから見ていきます。配管に穴が開いた箇所をカットしてみると、キリ穴のような貫通形態ではなく、周囲が全体的に削られて減肉していることがあります。そして最も薄くなったところが貫通してしまい穴になっています。このような穴開きは、化学的な腐食=コロージョンのみが原因ではなく、機械的な作用を伴う摩擦腐食=エロージョン・コロージョンが原因であると推定されます。

機械的作用を与えるのは蒸気凝縮ドレンの水滴です。高速の蒸気の流れにドレンが混入することで、ドレン水滴が配管や設備の曲がり部、衝突部、出口部に打ち付けられる現象は、ドレンアタックなどと呼ばれます。専門的には「液滴衝撃エロージョン」として知られる現象で、配管や設備の減肉、穴開きに繋がります。

ドレントラップ二次側の還水配管で起こる減肉

「高速の蒸気の流れにドレンが混入」というと蒸気送気配管内のみで起こる現象のようですが、還水配管内にもドレンが再蒸発したフラッシュ蒸気が存在するため類似の環境となり、同現象が起こる可能性があります。ドレントラップの出口付近では配管内の流速が上がり、ドレンの水滴が高速流に乗って、曲がり部に激突します。このドレンアタックによって配管の減肉が起こり、やがて穴開きに至ります。

 

配管の減肉が起こりやすいドレントラップのタイプとは?

還水配管でのエロージョン・コロージョン発生には、ドレントラップのタイプが影響します。ドレントラップのドレン排出形態は、次の2つに分けることができます。

  • 間欠的に排出するドレントラップ
  • 連続的に排出するドレントラップ
間欠的に排出するドレントラップ

間欠排出するタイプでは、開弁、閉弁が交互に起こり、ドレンを排出する時間と排出しない時間ができます。排出時は溜まったドレンを一気に吐き出すことになるため、還水配管内の瞬時流量が大きくなり、管内流速が速くなります。

配管の減肉が起こりやすい間欠的に排出するドレントラップ

連続的に排出するドレントラップ

一方、連続排出タイプは、流れ込んできたドレンの量がそのまま遅れなく連続的に排出されます。その結果、還水配管内の瞬時流量は間欠排出タイプに比べて小さく、管内流速も遅くなります。

配管の減肉が起こりにくい連続的に排出するドレントラップ

ドレンの水滴が高速流に乗って、曲がり部に激突することで、ドレンアタックによる環水配管の減肉が起こるため、ドレンの水滴が大きく、管内の流速が速いほど、衝撃力が大きく減肉が促進されます。そのため、ドレントラップを選定する際も、一度に排出するドレン量が少なく、管内流速も遅い連続排出タイプを選ぶことがリスク回避に繋がります。

 

配管の減肉対策

ドレントラップ二次側の還水配管の減肉を防ぐ対策としては、以下2つの方法があります。

連続排出のドレントラップを選ぶ

正常なドレントラップでも、それ自体の作動がエロージョン・コロージョンの発生原因に成り得るため、リスクの小さいタイプを選択します。原子力発電所に設置されるドレントラップは、間欠排出タイプから連続排出タイプ、特にフリーフロートタイプへと順次切り替えられる傾向にあります。これは、フリーフロートタイプは連続排出であり、還水配管に衝撃を与えにくいためです。

強い配管材料を選ぶ

エロージョン・コロージョンに強い材質としては、鋳鉄よりも炭素鋼、炭素鋼よりも合金鋼やステンレス鋼が挙げられます。過酷な条件でもダメージを受けにくい配管材料を採用することで、配管破損のリスク低減を図ることが可能です。

数年前から原子力発電所では、長寿命化や信頼性向上、エロージョン対策として、還水配管の材質を従来の炭素鋼からより強靱なものへと変更する動きが始まっています。PWR系発電所ではステンレス材へ、BWR系発電所ではクロム・モリブデン鋼、低合金鋼等へと順次変更されてきています。加えて、配管の材質だけでなく、配管に設置するバルブやドレントラップも同じ材質のものが選定されています。

配管の減肉対策(強い配管材料を選ぶ)

今回は配管の減肉に関して、ドレントラップ二次側の還水配管で起こるトラブルとその対策方法をご紹介しましたが、ドレントラップ一次側(上流側)で起こるトラブルと対策は発電所の配管トラブル後編(トラップ一次側)でご紹介します。

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