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スチームトラップの基本
サーモダイナミック・スチームトラップ
サーモダイナミック・スチームトラップの概要
サーモダイナミック・スチームトラップは小型軽量シンプルな構造な上、幅広い圧力帯で使用でき、垂直配管でも水平配管でも設置可能です。 これらの特長から、主管のドレン抜き、トレーシング、小型の装置用まで幅広く使用されています。
作動はメリハリのある間欠作動であり、数秒間ドレンを排出し、数十秒間閉弁状態が続く・・・この繰り返しです。
ディスクとインパルスの2タイプ
サーモダイナミック・スチームトラップは2つのタイプに分類されます。インパルスタイプとディスクタイプです。
インパルスタイプは、蒸気ロスが大きく、異物による詰まり故障を起こしやすいことなどから今日ではあまり使用されず、その地位はディスクタイプに取って代わられています。
ディスク・スチームトラップは円盤形状の1枚の弁体が内部部品として存在し、この弁体が弁座に密着すれば閉弁、離れれば開弁となります。 ディスク弁は機械的には何にも拘束されていません。 弁座は内輪と外輪の同心となる2つの円で構成されています。2つの円とディスク弁が接触する2つの面がどちらもシート面となります。
内輪は流入と流出の仕切りであり、蒸気が短絡(ショートパス)して二次側へ漏れるのを防止する役割があります。外輪は変圧室から閉弁動作に伴う蒸気のリーク量を制御する役割があり、規則正しい間欠作動に寄与します。
ディスク・スチームトラップの特長
冒頭で述べました通り、ディスク・スチームトラップは広く使用されています。それは以下のような特長があるためです。
設置が容易
- 軽量コンパクト
- 水平配管でも垂直配管でも設置可能で利便性が高い
選定が容易
- 1台で幅広い圧力レンジ適応するため選定や在庫管理が容易
過熱蒸気で使用可能
- ウォーターシールを必要としない
- 超臨界水で使用できる唯一のスチームトラップ
凍結に強い
- 内部に水が残留しにくい構造のため凍結しにくい
イニシャルコストが安価
- シンプルな構造であるため、製品単価が比較的安価
ディスク・スチームトラップの短所
一方でディスク・スチームトラップには次のような短所があります。
寿命が短い
- 間欠で衝撃的な作動であるため、弁や弁座の摩耗が激しい
蒸気ロスが大きい
- 作動原理上蒸気の巻き込み量が多い
外的要因を受けやすい
- 降雨や外気温の影響で変圧室内の蒸気圧力が変化し、作動に影響する
騒音が大きい
- 閉止時間の長い間欠排出であるため、排出時の瞬時流量が大きく、ドレン排出時の音が大きい
ディスク・スチームトラップの作動説明
ディスク・スチームトラップの作動は 前述の通り、開弁と閉弁を交互に行う間欠作動です。
弁が開閉するのは、弁の上面と下面それぞれに異なる力が働くからです。 力は蒸気・ドレン・空気など、トラップ内部に流入し、通過する流体からもたらされ、運動エネルギーや圧力エネルギーが複雑に絡み合っています。
以下に3つの場面に分割してディスクトラップの作動を考えてみます。
場面1.開弁状態→閉弁
トラップが閉弁する際、2つの力の働きが重要です。変圧室内を満たしている蒸気によってディスク弁の上面にかける力と、ディス ク弁下面を走り抜ける蒸気によって生じる力です。
蒸気とは、生蒸気のみならず、トラップへ流入してくるドレン自体が圧力低下によってフラッシュしたものも含まれます。ディスク弁の開弁時、ディスク弁の下面側では、蒸気は高速で流れます。この高速の流れはディスク弁下面域の圧力低下を引き起こします。圧力低下によってディスク弁に下向きの力が作用し、ディスク弁はバルブシートに着座します。
これは下記のベルヌーイの定理によるものです。
一方、変圧室内では、蒸気はディスク弁の上面にその面積×圧力で計算される大きさで下向きの力=閉弁力として働きます。
ディスク弁上面は全面が受圧面積となり変圧室内を満たす蒸気の圧力によって押しつけられるのに対して、開弁力はディスク下面の入口ポートの直径分しか受圧面積がないため、圧力が同じであれば、受圧面積の大小が力の大小となるため、ディスク弁両面の圧力が同じような値であっても閉弁後すぐに開弁してしまうことがありません。
場面2.閉弁状態→開弁
ディスク・スチームトラップはドレンを排出し終えると、閉弁状態に戻ります。ディスク弁が閉弁位置にあるとき、変圧室内には蒸気が閉じこめられています。 この蒸気圧力はディスク弁へ下向きの力をかけています。変圧室内の蒸気圧力自体で変圧室がシールされている状態です。
時間が経過すると、熱伝導および放熱によって、変圧室内の蒸気圧力が低下していきます。変圧室内の圧力低下は、放熱等による蒸気の凝縮以外に、弁・弁座の摩耗や傷によっても起こります。弁・弁座のシール性能が悪いと、変圧室内の蒸気が二次側へ漏れて抜けてしまうからです。
このようにして変圧室内の圧力が低下した結果、開弁力が閉弁力を上回ると開弁して、ドレンが排出されます。
場面3.空気による閉弁問題
実は、ディスク・スチームトラップにおいては空気が流れても蒸気が流れたときと同様に閉弁します。 しかし空気は蒸気と異なり、トラップが使用される通常の圧力・温度域では凝縮しません。変圧室内で凝縮が起こるかどうかは、ディスク弁の開弁には非常に重要です。 変圧室内の気体が凝縮することで閉弁力が弱くなり開弁に至るからです。
凝縮が起こらなければ閉弁力が維持され続けますので、いつまでたっても開弁しません。開弁しないと言うことは当然ドレンは排出されません。 これはすなわち、エアバインディングであり、空気を排除する機能がないディスク・スチームトラップは、空気による閉弁でエアバインディング状態に陥るということを意味します。エアバインディングについてはエアバインディング(空気障害)で説明しています。
エアバインディングと言えば、ディスク・スチームトラップに限らず、スチームトラップにおける典型的なトラブルと言え、製造メーカーは過去からさまざまな方法でエアバインディングの問題に対処してきました。例えば、ディスク・スチームトラップの場合は、弁体のシート部に溝切り加工して空気が漏れる経路を故意に形成するという方法があります。 この方法は、空気だけでなく蒸気も漏らしてしまいます。はじめからシール性能を犠牲にしていることになり、省エネ性能が劣ります。
弁に加工を施して空気を漏らす方法はもう一つの問題も抱えています。 加工された溝から蒸気漏れが起こるため、変圧室内の圧力維持が困難となり、 作動間隔が短くなります。その結果、弁と弁座の摩耗進行が早く、寿命が短くなります。
また、別途取り付けた手動のブローバルブを操作して空気を抜いてしまう方法もあります。人の手によってブローバルブを操作する方法は蒸気漏れを少なくできますが、なにより手間がかかるという問題があります。この問題を解決するために通気初期の空気を自動的に排除して、スタートアップ時間の短縮と、バルブ操作工数の削減を図ることができる自動ブロー機構を備えているモデルもあります。自動ブロー機構についてはスチームトラップの歴史 後編で説明しています。
空気排除の方法によっては、蒸気をロスするばかりか、スチームトラップの寿命にも影響しますので、たかが空気排除、補助的な機能の問題と軽視できない重要なポイントです。