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配管

蒸気の送気開始・停止時の注意点 前編

 

蒸気の送気開始時の注意点

工場内に張り巡らされている蒸気配管に蒸気を送り始める際、バルブを一気に全開にせず、徐々に開けていくよう操作することが求められます。それは何故かご存知ですか?普段何気なく行っている操作にも理由があります。今回は、装置や配管で安全に蒸気を使用するため、蒸気系の運転開始・終了時に注意すべき点を、その理由も合わせてご説明します。

バルブの急開を避ける理由・・・それは、自動車の運転などと同様、「急」の付く操作は避けるべきだから?確かに様々な操作を行う上で、急な操作を避けた方が良い結果に繋がることは多いものですが、これでは理由の説明になっていません。

バルブ開度を急激に増やすと何が起こるのでしょうか。急激に温度が上がる?急激に蒸気が流れる?確かにどちらも問題がありますが、温度上昇については後編で触れ、ここでは蒸気の流れについて考えてみます。

バルブを徐々に開けていく一番の理由は、「ウォーターハンマーを発生させないため」と言えます。つまり、徐々に開度を増すようにバルブ操作をすることにより、大量の蒸気を急激に流さないようにして、ウォーターハンマーの発生を防止しているのです。ウォーターハンマーの発生原因はウォーターハンマー (発生のメカニズム)で説明しています。

蒸気の送気開始時の注意点

では、配管系統に合った適正なサイズのバルブが設置されているはずなのに、どうしてバルブ開度に神経質になる必要があるのでしょうか。それは、次の2つの理由からです。

  • 送気前の配管内は大気圧であり、定常運転時より圧力差が大きいため、少しの開度でもたくさんの量の蒸気が流れてしまう
  • 送気された蒸気は配管を昇温するために配管途上で凝縮してしまう

 

バルブ急開を避ける理由1:蒸気が大量に流れるとドレンが大量発生

大量の蒸気が急激に流れると、何が問題なのでしょうか。「大量の蒸気を急激に流さない」は「短時間に大量の蒸気を流さない」に言い換えることができます。送気初期の温度差が大きい段階では管への伝熱は速く、管に触れる蒸気は次から次に凝縮していきます。つまり、送気すればするだけ蒸気が凝縮し、ドレンが発生する状態です。その結果、蒸気の瞬時流量も大きくなります。蒸気の瞬時流量は、配管が飽和温度まで昇温するためにかかる時間によって決まります。

例えば、配管が飽和温度に昇温するまでに消費される蒸気量が100[kg]で、昇温にかかる時間が15分とすると、「100[kg]÷15/60[h] = 蒸気の瞬時流量  400[kg/h](ドレンの瞬時流量 400[kg/h])」となり、蒸気(ドレン)の瞬時流量は400[kg/h]です。

バルブを一度に全開にした場合

送気初期の温度差が大きい段階で大量の蒸気が流れた場合、管への伝熱が速いため管に触れる蒸気は次から次に凝縮していきます。

蒸気が大量に流れるとドレンが大量発生:送気初期にバルブを一度に全開にした場合

送気が続き温度差が小さくなると大量の蒸気を流してた場合でも、管への伝熱が余り起こらずドレンの発生量は少なくなります。

蒸気が大量に流れるとドレンが大量発生:送気初期にバルブを一度に全開にした場合

バルブを徐々に開いた場合

送気初期の温度差が大きい段階でも、少量の蒸気しか流れなかった場合はその少ない蒸気のみしか凝縮がおこらないため、多くのドレンが発生することはありません。

蒸気が大量に流れるとドレンが大量発生:送気初期にバルブを徐々に開いた場合

 

バルブ急開を避ける理由2:スチームトラップの排出能力

スチームトラップを選定する際は、このドレンの瞬時流量をカバーする排出能力のものを選ばなければなりません。逆に、既にトラップが設置されていてこれから送気する場合は、トラップのドレン排出能力を超える瞬時流量となるような開度で、蒸気を送気してはいけません。

実際の現場では、蒸気の元バルブは1箇所であっても、スチームトラップは蒸気配管中に1台ではなく、適切な箇所に複数設置されるケースが多くあります。このとき、各トラップの排出能力を超えてしまう瞬時流量でドレンを流すことはできません。

一時的とはいえ、スチームトラップの排出能力を超えるドレンが発生すると、排出遅れのドレンが蒸気配管内に滞留し、ウォーターハンマーの原因になることがあります。

バルブを一度に全開にした場合

送気初期の温度差が大きい段階で大量の蒸気が流れて各トラップの瞬時流量を超えてしまうドレンが発生した場合、排出できなかった大量のドレンが配管内に溢れだしウォーターハンマーの原因になります。

スチームトラップの排出能力:送気初期にバルブを一度に全開にした場合

バルブを徐々に開いた場合

送気初期の温度差が大きい段階でも少量の蒸気しか流れず発生したドレンが各スチームトラップの瞬時流量を超えなかった場合は、確実にドレンは排出されるため滞留したドレンによるウォーターハンマーが発生することはありません。

スチームトラップの排出能力:送気初期にバルブを徐々に開いた場合

ドレン量の計算、スチームトラップの選定については、配管からのドレン排除 中編(ドレン発生量の計算)で詳しく説明していますのでご参照ください。スチームトラップの能力だけでなく、バイパスバルブを活用してドレンを排出する方法はバイパスバルブで詳しく説明しています。その他の注意点については蒸気の送気開始・停止時の注意点 後編でご説明しています。